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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)3339号 判決 1982年5月12日

原告

ツエルベガー・ウスター・リミテッド

右代表者社長

ウオルター・へス

同副社長

ハンス・ロッハー

右訴訟代理人

直江孝久

有地寛

井野口勤

右有地寛、井野口勤訴訟復代理人

川合宏宣

被告

日本ウスター株式会社

右代表者

川口久次

右訴訟代理人

村林隆一

今中利昭

小野昌延

右村林隆一訴訟復代理人

小泉哲二

右今中利昭訴訟復代理人

吉村洋

井原紀昭

主文

一  被告日本ウスター株式会社を解散する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

1 本件訴を却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(本案についての答弁)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者及び被告設立の経過

(一) 被告は、試験器、制御器、測定器の販売、生産管理システム機器の販売、再実施権つきのライセンス契約を締結して技術を導入すること等を目的として、昭和四八年一一月二八日に設立された株式会社で、その発行済株式総数は九万株(一株の額面金額金五〇〇円)である。

(二) 原告は、スイス法に基づいて設立された、繊維機器、繊維試験器、通信機等の製造販売を目的とする会社で、「ウスター」の商標のもとに、原告の開発した数多くの特許権を実施する繊維に関する試験器、制御器を始めとする電子製品の製造販売権を有しており、原告の有する特許対象技術を利用する商品を製造販売しようとする者との間で技術援助契約(以下「ライセンス契約」という。)を締結して、その製造販売の許諾を与える業務も営んでいる。

(三) 原告は、昭和三八年五月一五日、訴外川口久次(以下「川口」という。」を代表取締役とする訴外計測器工業株式会社(以下「計測器工業」という。)との間にライセンス契約を締結(日本政府の認可は同年一〇月二二日)し同社に対して、原告の特許権に基づく電子製品の製造販売を許諾した。その結果、同社は、右製品の製造販売を主たる営業とすることになつた。

なお、原告は、併せて、計測器工業との間に投資契約を締結し、当初同社の発行済株式の四〇パーセントを、その後、昭和四四年五月一三日の同社の株主総会において決議された増資(変更登記は同年一二月四日)の結果、発行済株式の五〇パーセントを所有するに至つた。

(四) 原告と計測器工業との間の前記ライセンス契約は、昭和四八年一〇月二三日をもつて期間満了により終了したところ、原告と川口との間の同年九月一〇日付合弁事業設立に関する契約に基づき、従前の計測器工業の地位に代わるものとして、被告が設立され(登記簿上の本店所在地は頭書記載のとおりであるが、現実の営業所は、吹田市江坂町一丁目二三番一〇一号大同生命ビル内)、その取締役には、原告指名のウォルター・ジェイ・ヘス(原告の社長で日本非居住者のスイス人。以下「ヘス」という。)、ハンス・ロッハー(原告の副社長で日本非居住者のスイス人。以下「ロッハー」という。)、クルツ・ウェーバー(前同。「ウエーバー」という。)ら五名(以上はいずれも非常勤)と、川口指名の同人を含む五名が就在し、代表取締役には川口が就任した。

そして、原告は、昭和四九年六月二八日に、被告との間でライセンス契約を締結(日本政府の認可は同年一二月二七日)した。これにより、被告は、右契約におけるライセンシーとして、原告の有する前記特許権に基づく一定の許諾製品(以下「ライセンス製品」ともいう。)を、日本において(一定の制限下で日本国外でも)製造販売する独占実施権を取得し、計測器工業は、その下請製造会社となつた。

2  原告の株主権

原告は、被告設立にあたり、その発行済株式の五〇パーセントにあたる四万五、〇〇〇株を引き受けて払込手続をした。なお、原告は、右株式取得につき、昭和四八年一〇月二四日付外資法認第一二六四四号(条四五七九)をもつて、日本政府の認可を得ている。<以下、事実省略>

理由

一請求原因1(一)ないし(四)の事実(当事者及び被告設立の経過)は、当事者間に争いがない。

二そこで、まず被告の本案前の主張について判断する。

1  原告の当事者適格について

<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  昭和四三年一〇月二七日ころ、川口は、ヘス、ロッハー、ウエーバーと会合し、節税対策等のため、計測器工業が原告から商品を仕入れるにあたり、現実の仕入価格に一五パーセント上乗せした価格を表向きの仕入価格として、計測器工業に生じる利益を隠すとともに、右上乗せ分を、同社の株主である原告と川口とで五〇パーセントずつ分配することを話し合つた。

(二)  引き続き同年一一月三日に行われたロッハーとの話合いにおいて、川口は、当初同人が分配を受けるものとされていた右上乗せ分の五〇パーセントをさらに分割し、その五分の二を同人個人に帰属する分としてHK口座の預金とし、残り五分の三は、計測器工業の株主が同社のために使用する趣旨(但し、その具体的な使途は川口の指示による。)で、右HK口座とは別のKSK口座の預金とする旨原告との間で合意した。このKSK口座の預金は、昭和四六年六月ころ、フランスで繊維関係の博覧会が開かれたおりに、これに出席した川口と原告関係者らが会食した費用に使用されたこともあつた。

(三)  そして、被告設立にあたり、当初被告の資本金は、金六、〇〇〇万円(一二万株)とする予定であつたため、原告は、川口の了解のもとに、昭和四八年一一月一二日、その七〇パーセントにあたる原告名義の株式の払込金として、金四、二〇〇万円(49万4,117.65スイスフラン)をKSK口座の預金から株式会社第一勧業銀行船場支店に送金した。

ところが、川口は、税務上国税庁の監督下に置かれることを避けるため、被告の資本金を金四、五〇〇万円(九万株)に変更し、右送金にかかる金四、二〇〇万円のうち、右変更後の資本金の七〇パーセントにあたる金三、一五〇万円(36万1,362.86スイスフラン)だけを原告名義の株式の払込金に使用し、残余をKSK口座の預金に返金することとして、その旨同月一三日付書面で原告に通知し、原告もこれに同意し(したがつて、KSK口座上は、同月一二日に右変更後の払込金相当額を送金したものとして処理された。)、結局、同月一六日に外貨交換された後、同月二七日に、右金三、一五〇万円が原告名義の六万三、〇〇〇株に対する払込金として払込まれた。

なお、原告は、八万四、〇〇〇株以内の被告株式の取得について、外資に関する法律(昭和二五年法律第一六三号)一一条一項及び一四条一項の規定に基づき昭和四八年一〇月二四日付外資法認第一二六四四号(条四五七九)をもつて、日本政府の認可を得ている。

(四)  右の経過でKSK口座の預金から払込まれた金三、一五〇万円は、形式上はすべて原告名義の株式の払込金として取扱われ、したがつて、株主名簿及び株券の表示の上でも、原告が六万三、〇〇〇株の株主である旨記載されてはいたが、同年九月一〇日に原告と川口との間で秘密裏になされていた合意により、原告と川口との被告に対する形式上の出資割合を七対三とする同日付の前記合弁事業設立に関する契約書の条項にかかわらず、実質上の出資割合は一対一として、したがつて、原告は、原告名義の株式のうち発行法株式の五〇パーセントにあたる株式についてのみ実質的株主となり、残り二〇パーセント分の株式については、原告において将来買取る権利のあることを留保したうえで実質的株主は川口とするいわゆる名義株とすることになつていたため、前記金三、一五〇万円のうち、資本金の五〇パーセントにあたる金二、二五〇万円(四万五、〇〇〇株)のみが実質的にも原告所有の株式の払込金として使用され、残余の金九〇〇万円(一万八、〇〇〇枚)は、実質的には川口所有の株式(但し名義株)の払込金として使用された。

そして、被告の発行済株式のうち、右六万三、〇〇〇株以外の二万七、〇〇〇株は、すべて川口が引き受けて払込んだので、結局、川口は、実質的には四万五、〇〇〇株の株主となつた。

(五)  そして、被告設立後、原告は、被告の株主総会の都度その招集通知を受けており、また、前記合意に基づき株式に対する配当金も受け取つていた。

(六)  その後、後述の原告と被告との間のライセンス契約の解除に伴い、川口が前記原告所有株式を買う取るという提案等もなされたが、現在に至るも、右株式の買取は実施されていない。

以上のとおり認められ<る。>

そうすると、原告は、被告の発行済株式の二分の一にあたる四万五、〇〇〇株の株主たる地位に基づいて、被告の解散を求める訴の原告適格を有している。

2  不起訴の合意の存在について

<証拠>によると、次の事実が認められる。

(一)  原告は、計測器工業の昭和四四年五月一三日付株主総会決議にかかる増資(変更登記は同年一二月四日)の結果、同社に対する持株比率を従来の四〇パーセントから五〇パーセントとするにあたり、右株式取得についての日本政府の認可を得るに際して、被告の本案前の主張2記載のとおりの内容の、同年一〇月六日付の書面を通産大臣宛に提出し、また、計測器工業も、同月九日付の被告の本案前の主張2記載のとおりの内容の念書を、通産省重工業局長宛に提出した。

(二)  被告設立のため、同年九月一〇日に原告と川口とが合弁事業設立に関する契約を締結した際、原告は、川口に対し、被告及びその従業員の利益において行動すること並びに被告の経営者の利益において行動することを保証した書面を差し入れた。

以上のとおり認められ、これに反する証拠はない。

右認定事実によれば、右(一)認定の原告提出書面は、あくまでも、原告が、計測器工業との関係において、経営不介入の意思を表示したものにすぎず、たとえ同社の販売部門を分離独立させた会社であろうとも、同社とは別法人である被告との関係において、原告が株主としての権利を行使する際に、右書面が何らかの制約を課する法的効果を持つとは認められないうえ、その内容自体、解散請求訴訟を提起する株主としての権利を行使しないという意思まで含むものとは認められない。また、右(二)認定の書面も、右同様の権利放棄の意思を表示したものとは認められない。

以上のとおり、原告と被告との間に不起訴の合意が存在するとは認められないから、この点に関する被告の主張は採用しない。

判旨三次に、商法四〇六条ノ二第一項所定の要件に該当する事実の有無について検討する。

1  前記争いのない事実に、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  昭和四八年末以降のいわゆる石油ショックに起因する構造的不況の影響で、被告の業績が急速に悪化したことから、被告の代表者である川口は、原告指名の他の取締役の了解を得ることもなく独断で、経費節減のため、昭和四九年一一月ころまでに、吹田市内にあつた被告の営業所を、高槻市上土室五丁目五九〇番地所在(当時)の計測器工業の事務所、工場内に移転するとともに、従業員のうち一部退職者を除く全員を計測器工業において再雇傭し、さらに、被告所有の在庫品等の動産類の全部を計測器工業に売り渡した形をとり、以後、販売、サービス業務をもすべて同社において行うこととした。こうして、被告は、事実上計測器工業に吸収され、商業登記簿上名目的な役員を残しただけで、その実質的な営業活動を一切停止した。

なお、右動産類の譲渡については、昭和五〇年五月一九日開催の被告及び計測器工業の各取締役会の席上、被告は計測器工業に対して金二億六、三〇〇万円の売掛債権を有する旨報告されており、また、同年一二月末決算の被告の貸借対照表上は、その他流動資産として金一億九、二九四万円余が計上され、他方、同月末決算の計測器工業の貸借対照表上は、ほぼ右同額の未払金が計上されていた。

(二)  右の川口の措置に対し、原告は、被告の営業所の移転自体には、経費節減という観点から賛成はしたものの、被告の実質的な営業活動を全く停止し、従業員まで計測器工業に吸収して、いわば被告を休眠会社としたことについては、その必要性がなく、また、そのために「ウスター」のイメージも害されたとして強く抗議した。しかし、最終的には、昭和五〇年五月ころ、原告は、昭和五二年三月末までに被告の営業を再開することを条件に、被告の右状態を追認し、営業再開までの間、ライセンス契約上被告に認められた原告のライセンス製品の販売権を、一時計測器工業に譲渡することに同意した。

(三)  ところで、ライセンス契約上、日本以外の地域での販売代理店の指名権は、最終的には原告に留保されていたところ、台湾における代理店に関して、川口が従来からの計測器工業の代理店であつた建台豊公司を引き続き被告の代理店としたのに対し、原告はユナイテッド・エキスポーターズ社を代理店とするように要求したことから紛争が生じていたが、川口は、原告の反対にもかかわらず、ユナイテッド・エキスポーターズ社が代理店としては好ましくない会社であるとの理由で、建台豊公司との取引を続けたため、原告と川口との対立は深刻化した。

(四)  そこで、ヘスと川口とは、昭和五〇年九月一日、二日の両日、右代理店問題に関する紛争を解決すべく会談したが、話合は決裂し、原告と被告との間のライセンス契約は、解除されることになつた。なお、右ライセンス契約は、手続的には、遅くとも、同契約が被告の同契約四条違反(台湾の代理店問題に関する原告の指名権を無視した違反行為)を原因として解除されたことを確認した同月九日付の原告の被告宛書面が被告に到達した日から三〇日の経過によつて、同契約一九条により終了した。

その後、原告と川口とは、右契約終了に件う事後処理のため、計測器工業ないしは被告の所有する在庫品等の原告による買取を協議するなどしたが、合意には至らなかつた。

(五)  川口は、右ライセンス契約解除後、原告が、日本国内において原告のライセンス製品を販売するため、昭和五一年一月に、新たにツエルベガー・オーバーシーズ日本支社を設立したことから、原告が、被告の計測器工業に対する前記(一)記載の債権について、被告の株主としての地位に基づき何らかの法的主張をしてきた場合に対処するために、独断で、被告を休眠化するにあたつて計測器工業に譲渡した在庫品等を、同年中に再度計測器工業から被告に譲渡した形をとり、この結果、同年度の被告の決算報告書(同年一二月末決算)上、被告の棚卸材料及び商品は金一億三、九四二万円余に増加したかわりに、その他流動資産が金一億四、四四一万円余減少することとなり、他方、同年度の計測器工業の決算報告書(同月末決算)上は、ほぼ右同額の未払金が減少した。

このような帳簿操作に対して、原告は、被告の株主として、昭和五二年四月八日付書面で、川口に抗議し、元の状態にもどすように要求したが、同人は、これを拒絶し、右のごとき状態のまま放置した。

(六)  そして、川口は、ライセンス契約上、同契約が解除等により終了したら被告は直ちに特許及び特許申請及びノーハウを使用することを停止する旨規定(二〇条)されていたにもかかわらず、同契約が前記のとおり終了した後も、計測器工業の名において、被告ないし計測器工業が同契約終了時までに所有していた原告の特許権を実施した製品を日本国内及び台湾等で販売し続けた。そのため、原告は、これを特許権侵害として、計測器工業に対し、特許権侵害差止等請求訴訟(大阪地方裁判所昭和五一年(ワ)第五四九三号、昭和五二年(ワ)第四九五二号)を提起し、昭和五六年三月二七日に請求認容(損害賠償請求については一部認容)の判決の言渡を受け、特許権侵害差止請求を認容した部分は、計測器工業において控訴せず確定した。

なお、原告と計測器工業との間のライセンス契約は、昭和四八年一〇月二三日をもつて期間満了により終了し、これに代わるものとして、原告と被告との間に新たにライセンス契約が締結されたものであつたが、右判決において、原告と計測器工業ないしはその販売会社ともいうべき被告との間のライセンス契約が事実上存続している(したがつて、原告と被告との間のライセンス契約終了後も、在庫品である原告の特許権を実施した製品を計測器ないしは被告が処分するのは自由である)旨の計測器の主張も、原告の特許権侵害差止請求を認容するにあたつてすべて排斥された。

(七)  右判決の確定によつて、被告が帳簿上所有するものとされていた原告の特許権を実施する在庫品は販売できなくなり、事実上無価値となつたため、被告の積極財産としては、計測器工業に対する債権のほかは、ほとんどみるべきものはなくなつてしまつた。

(八)  ところが、計測器工業も、昭和五四年三月ころ支払不能になつて、同月一九日に和議開始の申立をし、同年一一月一九日に和議開始決定を受けた後、和議は認可されているが、その和議条件は、債権者は債務者に対し、債権元本の五九パーセントと利息損害金全部を免除し、債務者は、残り四一パーセントを和議認可決定確定後七年間で年賦弁済するというものである。右和議開始申立書によれば、計測器工業は被告に対して金五、七二二万二、〇四八円の債務を負担している旨記載されていた(以上の事実は当事者間に争いがない。)。したがつて、被告の計測器工業に対する債権も、たとえ右債権につき和議条件に従つた弁済を受け得たとしても、当面被告の営業を再開してその経費に充てるには、到底十分な資金とはいえなくなつてしまつた。

(九)  このようにして、被告は、少なくとも、原告のライセンス製品を販売するという設立当初の目的に沿つた営業活動を行うことは不可能となり、現在に至るも、その営業活動を再開していない。そのうえ、商業登記の上でも、昭和五〇年一一月二〇日に取締役の辞任登記をして以降全く登記をしていない。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

判旨2 ところで、いわゆる休眠会社である被告に対し解散判決をなすべき事由の有無について検討するにあたつては、商法四〇六条ノ三(昭和四九年法律第二一号により追加)のいわゆる休眠会社の整理に関する規定の法意も併せ考慮して同法四〇六条ノ二の要件の有無を判断するのが相当であると解すべきである。しかして、商法四〇六条の三は、事実上営業を廃止している株式会社について、商業登記簿上その事実が反映されないことにより、他の者による商号選択の範囲が狭められる(商業登記法二七条、商法一九条、二〇条参照)ばかりでなく、右のような会社はいわゆる会社売買の対象とされるなど不当な目的に利用されやすいことを慮り、このような事態を防止するためには、その実態に合致させるための措置としてこのような休眠会社を解散したものとみなすのが合理的だと解されることから規定されたものであり、休眠会社であると推定するためには、五年以上登記をしていないという事実の存在を必要とするなど規定している。

そこで、右規定の法意と対比して、解散判決をなすべき事由について考えてみると、商法四〇六条ノ二第一項一号では、「会社ノ業務ノ執行上著シキ難局ニ逢着シ」た結果「会社ニ回復スベカラザル損害ヲ生ジ又ハ生ズル虞」のあることが、二号では、「会社財産ノ管理又ハ処分ガ著シク失当」であるため「会社ノ存立ヲ危殆ナラシムル」ことがそれぞれ要件とされているが、このような厳格な要件を必要としているのは、営業を継続中の企業においては、会社を解散するか否かの判断は、第一次的には株主の多数意思(商法四〇五条参照)に委ねられるべきであつて、多数株主が営業の継続を希望しているにもかかわらず、少数株主の請求により、判決によつて会社を解散させることができるのは、企業の継続が株主の共同利益を害するきわめて例外的な場合に限られるべきであるとの法意に出たものと解される。しかしながら、商法四〇六条ノ三第一項に規定するような休眠会社またはこれに準ずるような会社については、右と同様に解すべき必要性は全くなく、このような会社は、そのこと自体では直ちに商法五八条の解散命令の対象とはならないとしても、前記の休眠会社の弊害を考えるならば、商法四〇六条ノ二の判決による解散事由との関係では、たとえ、株主の多数意思のもとに会社が休眠状態に置かれたものであつても、また会社決算上は債務超過の状態にはなくても、少なくとも、同条一項に規定する以上の株式を所有する株主が休眠状態の継続を是とせず、会社財産の清算を求める場合には、会社を休眠状態のままに放置していること自体が会社の業務体制の欠缺を意味し、会社名義の悪用等による不測の損害を蒙る虞れなしとせず、したがつて、会社財産の管理方法としては著しく失当といえるから、近い将来会社が営業活動を再開する予定であり、しかもそれが実現可能なものである等の特段の事情のない限り、商法四〇六条ノ二第一項二号に該当する事由があるものというべきである。

3  これを本件についてみると、被告は、昭和四九年一一月ころ実質的な営業活動を停止して以来、現在に至るも営業を再開しておらず、商業登記簿上も五年以上登記をしていない休眠会社であるところ、右説示の特段の事情の存在を認めるに足りないばかりか、かえつて、被告は、少なくとも当初の目的に沿つた営業活動を再開しうる可能性を有しない状態に陥つていること右に認定したとおりである。してみれば、被告は、商法四〇六条ノ三の手続を経れば解散したものとみなされる余地のある会社であり、かつ、その現状については、商法四〇六条ノ二第一項二号に該当する事由があるといえる。

4 しかして、右のとおり被告に解散事由が認められる場合であつても、解散判決を求める以外の他の方法により容易に会社の休眠状態の是正等をなしうるときは、「巳ムコトヲ得ザル事由」があるといえないものとして、解散請求を棄却するのが相当てある。ところが、前記二1で認定したとおり、被告の株式は、原告と川口とが五〇パーセントずつ所有しているのであるから、そもそも原告が、株主として商法二三七条一項により川口をして株主総会を招集させ、あるいは同条二項により裁判所の説可を得て自ら株主総会を招集する等して、川口の取締役解任または会社の解散を決議しようとしても、川口の反対に会えば、その目的を達することができないことは明らかである。

そして、<証拠>を総合すると、原告は、被告の株主として、昭和五二年二月一一日付及び同年三月九日付各書面で、川口に対し、同月末に開催される予定の被告の株主総会において、被告の解散と清算人の選任を議題とするよう要求したが、川口には全くその意思はなく、右株主総会及びそれに先立つて同月三〇日に開催される予定の取締役会の招集通知にも、会社の解散を議題として明記しなかつたこと、開催された右取締役会においても、川口と原告側の取締役とが対立したまま解散を株主総会の議題とするか否か結論をみず、結局株主総会でも、被告の解散は議題として討議されるには至らなかつたこと、川口は、現在も被告を解散する意思は全くないことが認められ、これに反する証拠はない。

したがつて、現実にも、原告が商法二三七条一項、二項等により、改めて川口の取締役解任または被告の解散を議題とする株主総会の招集を求めても、その実効を期し難いことは明白であるから、原告は、もはや右手続を経るだけの実益を有しないというべきである。また、取締役の責任追及のための株主の代表訴訟(商法二六七条)や取締役の違法行為の差止請求(同二七二条)は、少なくとも、前記のごとき経緯で休眠状態になつている被告の現状を是正するための方法としては、何ら実効性のない手段というほかないから、原告は、解散判決を求める前に右手続を経る実益も有しない。

してみれば、被告には、解散判決をなすべき巳むを得ない事由が存在する。

四よつて、原告の本訴請求は、理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(道下徹 鬼頭季郎 岡田雄一)

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